「…じゃあ、オレ行くな……」


入口まで見送りなさいってお父さんが言ってくれて、ラウンジの扉まで歩いてきた。

通り過ぎる人がチラチラ奏くんと私を見てる。


さっきまでの勢いはどこに行ったのか奏くん本人が恥ずかしそうにしてるし…。


「あの…、何て言ったらええか……ほんまにありがとう…」

「ええねん!…っつーかオレやっぱり浮いてるやん!恥ずかしいー…」


腰につけてたキャップを目深に被って、グイってつばを折った。




「あっ……」

「どうしたの?」

「相手の人……見た…?」

「……うん………」





さっきの席には琴美さんがいた…。

とても心配そうな顔で私とお父さんのやり取りを見てた。



色白で年齢の割に綺麗な人…っていう印象。

私が想像してたのとは掛け離れた人だった。




「優しそうな人やな…、まぁー…人間外見では何もわからんけど…」

「…うん……でも…お父さんが選んだ人なんやし……ええ人やと思う…」

「…フッ……」

「…何……?」

「いや…、華凛ちゃんはほんまにお父さん好きやねんなー…って思って」



ぷうって小さく頬っぺが膨らんだ。
お父さんっ子なんて…この歳じゃあんまりいないのかな?

いつまでも笑う奏くんを無言で睨んだら、

「頑張れ……何かあったら連絡してな!」



そう言って、クククッて笑いながら帰っていった。



小さくなる後ろ姿。

その背中を見つめながら……



“ありがとう…”


心の中でもう1度お礼を言った。