豹変時計



言葉が、出てこない。



闇は人を隠す。





《隠れている》という安心感が、人の本音や、虚勢を炙り出すこともしばしばある。



(今の藍原は、どっちなんだ…)



▽




「…引くなよ」

「…無理な相談だな」


僅かな街燈の灯が 、両足で自転車を支え肩を竦める敦之を浮かび上がらせた。



「…ホントは冗談だって。」

「………」

「信じろよ」

優貴はゆっくりとした足取りで、再び自転車に跨がった。

「…今後は…冗談でも、ンなこと言うな。」


敦之が代わって自転車の荷台から降りる。

優貴の足がペダルを大きく踏んだ。


「前にこれ言った時は、笑い飛ばしてたのにな。」

駆け足の敦之が横目で優貴を見た。

「なあ、俺…」

「………」


優貴は構わず自転車を漕ぐ。



「俺、優貴を守れてるのかな?」

「………」


優貴が自転車を漕ぐ足を止めた。


「…お前も、零汰も…俺に何を求めてんの…?」

「えっ…」


俯く優貴の表情は、髪と闇に紛れて見えない。



「俺は男だ…って言っ……!!」

「………馬鹿」




固定観念へばり付き、甚だしい。そう言って敦之はまた、優貴の背を抱いた。


優貴はもう抵抗こそしなかったが、首を振った。


「分からない…」


「仕方ないさ……お前は貰うべきものを、貰えなかったんだから。」

敦之は優貴の髪を柔らかに撫でた。





▽


「学校、行けねーよ…」

上を向いてシャワーの湯を顔から浴びながら、優貴が呟いた。





(男に好かれるなんて…)


しかし《嬉しくなど、ない》



そう言い切ることは無かった。




優貴はまた、レナにダイヤルしている自分に気付き、思わず笑みを零す。


レナとは二か月間、直接会っていない。