豹変時計



言葉が、出てこない。



闇は人を隠す。





《隠れている》という安心感が、人の本音や、虚勢を炙り出すこともしばしばある。



(今の藍原は、どっちなんだ…)








「…引くなよ」

「…無理な相談だな」


僅かな街燈の灯が 、両足で自転車を支え肩を竦める敦之を浮かび上がらせた。



「…ホントは冗談だって。」

「………」

「信じろよ」

優貴はゆっくりとした足取りで、再び自転車に跨がった。

「…今後は…冗談でも、ンなこと言うな。」


敦之が代わって自転車の荷台から降りる。

優貴の足がペダルを大きく踏んだ。


「前にこれ言った時は、笑い飛ばしてたのにな。」

駆け足の敦之が横目で優貴を見た。

「なあ、俺…」

「………」


優貴は構わず自転車を漕ぐ。



「俺、優貴を守れてるのかな?」

「………」


優貴が自転車を漕ぐ足を止めた。


「…お前も、零汰も…俺に何を求めてんの…?」

「えっ…」


俯く優貴の表情は、髪と闇に紛れて見えない。



「俺は男だ…って言っ……!!」

「………馬鹿」




固定観念へばり付き、甚だしい。そう言って敦之はまた、優貴の背を抱いた。


優貴はもう抵抗こそしなかったが、首を振った。


「分からない…」


「仕方ないさ……お前は貰うべきものを、貰えなかったんだから。」

敦之は優貴の髪を柔らかに撫でた。








「学校、行けねーよ…」

上を向いてシャワーの湯を顔から浴びながら、優貴が呟いた。





(男に好かれるなんて…)


しかし《嬉しくなど、ない》



そう言い切ることは無かった。




優貴はまた、レナにダイヤルしている自分に気付き、思わず笑みを零す。


レナとは二か月間、直接会っていない。