「じゃあな…話せてよかった。ありがと」


うっとりと、レナが応える

「私もだよ。じゃ…おやすみ。」

「おやすみ」





優貴は、閉じた携帯のサブディスプレイを眺めながら呟く。


「校長…施設……ロシア……。やっぱり、金か…」



ベッドの上に膝を抱いて座り、顔を埋めると、拭き取りきれなかった髪の水分が集結し、優貴の腿にポタリと落ちた。


「でも、なんで俺が……」









「おはようございます…」

「っ!!」

気配を感じさせずに鞄を置いた零汰を見た瞬間、優貴の肩が跳ねた。その弾みに、持っていた携帯が手からこぼれ落ちる。


零汰は寂しげに肩を落とし、優貴から眼を逸らした。

その表情に昨日のような眼光はない。



「昨日は…」

「『ごめん』『すみません』とか、言いたいのか?!」



優貴が声を荒げた。


クラスメイトたちがただならぬ雰囲気を嗅ぎとり、話し声をひそめる。


「…ごめんなさい。」

「何なんだよ…」

優貴の拳が机を叩き付ける。


「僕は…」

間もなく鳴ったチャイムに、零汰の言葉はかき消された。




その日、優貴と零汰と言葉を交わさなかった。


優貴は部室でジャージに着替えると、準備運動…グランド10周の為に外に出た。

「っとと…」

靴をつぶさない為に踵を上げて歩いていると、優貴はバランスを崩した。


「…っぶね!」

それを後ろから誰かが支える。

優貴は自分を支える腕を見る。自分と同じジャージを着ているようで、腕にしっかり名前の刺繍がされていた。

――藍原 敦之――

優貴はその腕に支えられ、しっかりと立ち上がった。


「わりいな…藍原」

「ホントわりぃよ、天才くん」



敦之は優貴の頭を小突く。



「天才じゃねーよ…俺は並だ」

優貴は笑って敦之のワックスでフワリとセットされた頭を、小突き返した。


大袈裟に痛がりながら敦之も笑う。

「なんとでも言え。ついでに彼女譲れ」



「ははっ…何でその話と繋がるんだよ」