「…………」

シャワーを浴びて濡れた髪を拭きながら、優貴は携帯を操作し耳に当てた。


「もしもし…?」
「急にごめん…レナ…」

「…優貴から電話くれるなんて、珍しいね…」

「ごめん…」

「ううん、嬉しい。…どうしたの?」


「………」

(そうだ…俺、何で電話したんだっけ…)

優貴は何も言わず惚けたように、宙を見据えた。

「…………」

(男に襲われたなんて……)


「…ふふ…変なのっ…」

レナの息を含んだ笑いが、耳をくすぐる。

(……口が裂けても言えねぇよな…)



「私になんか頼みごと?お金とか?」

「……そんなこと」

暖かなレナの声に、優貴は少し笑顔を取り戻す。

「そんなこと、レナに頼むわけないだろ?」


レナの声が、少し拗ねたように低くなった。


「…頼ってくれても良いんだよ?私、優貴の為なら…」

「違うって。…そうだとしても、レナに迷惑かけたくない…」




この言葉で大抵の女子は思う。《自分は大切に想われているんだ》、と。

レナもその優貴の魅力に嵌まっていた。


《魅力の根源》が、それを狙っているか否かは定かでない。




優貴はようやく自分から言葉を発する。



「…今日の放課後さ、すぐ誰もいなくなったよな?」

「そうだね」

なんでもないことのように答えるレナ。

「それは…何で?」

優貴の眉間に、疑問の皺が寄る。

「あれ?先生の話聴いて無かったの?」

「…聴いて無かったかも」

「ダメじゃん、ちゃんと聴かなきゃ…なんか、『今日の部活は禁止。教師もすぐに帰りなさい』って、校長が急に言い出したらしいけど。」



「校長が………」

「何だろーね…」

「ああ…。」


(校長は…確か………)





優貴はこめかみに指を当てた。