学校のこととか、訊かれるんだって
そのくらいに考えてた





「ごめん!遅れた!」

ホームルームにいたのは窓辺に立つ零汰



…だけ



「こちらこそ突然すみません。本当は《訊きたいことがある》のではなく、《言いたいことがあった》んですが………」



怒っているのか、振り返った零汰の表情はどこか鋭い。


「…少し遅かったようです」

零汰の溜め息に、優貴の眉がピクリと動く。



「…だから、ごめんって……」


(逆ギレだろ…それはッ…!!)

言ってしまいそうな自分をグッと押さえ込んで、優貴は謝った。



零汰は楽しげに笑った。初めて見たその笑顔に、優貴は背中にヒヤリとしたものを感じた。



「《僕》はこれを渡したかったみたいですよ」

零汰がポケットから紙を取り出した。


「なんだ?それ…」


零汰は肩をすくめる。

「さぁね。友達〈アンタ〉に、迷惑を掛けたくないらしくてね…でも」


その紙は無惨に破かれた。

優貴は《それが何か分からないまま》に、眼を見張った。



「《僕》にとっては不都合なんですよね。コレ」



一つひとつが小さくなった紙は開け放たれた窓から外へ投げられる。

それらは風との連携で一瞬、小さな吹雪を降らせた


零汰は笑みを崩さぬままにそれを見守ると、再び優貴に向き直った。




「さて。優貴くん」

眼を伏せたまま歩み寄って来る零汰に、優貴は後退った。

本能が言っていたのだ

―――ニゲロ、と――



「なっ……」



「僕のものに、なってはくれませんか?」



優貴は両手首を掴まれた










「………っなせぇッ!!!」


息を切らして優貴は飛び起きた。



肩を上下させながら、ワイシャツの袖で汗を拭う。


(フラッシュバック………)

汗のせいで肌に張り付いたシャツが疎ましいらしく、優貴はシャツを脱いだ。


バレーボール部で鍛え、引き締まった体。




その手首にはうっすらと、痣が出来ていた。