窓の外には、まだ昼だというのにせっかちな…或いは、太陽が見よ見よと推しているかのような霞んだ月が見える。







授業中にも関わらず、そんな窓の外にある矛盾の世界を、頬杖を付いて眺める男子生徒が一人。





最後尾に座るその人物の隣には、他の席の生徒にはあるような他人の机はない。





ポッカリとそこに穴が開いたかのようにも見える。





教師の眼が、手にしていた教材から、授業も聞かずに外を眺める一人の生徒に移される



訝しげな眼だ。

教師はそのままその生徒に、持っていたチョークの削れていた方を向ける



「マサタカ!これの答えは?難易度かなり高いぞ」

「…はい」


気怠そうにに窓から教師に目を移し起立した《マサタカ》は、



「547です」

何でもないことのように、その《難問》に答える。




まるで、《自分がここにいる意味が分からない》とでも言うように。



――すげー…

――何でわかるんだ…

――アタシ、全然わかんなかったよ…



教室にざわめきが広がる





しかし、着席し再び窓の外に目を移した《ざわめきの原因》は、

教室の騒がしさにも、教師の表情が一層険しくなったことにも、気付いていなかった。










「なんだ…?あれ。気持ちわりぃな」



マサタカは自分の家の前を徐行しながらこちら側へ向かってくる、左ハンドルの黒い自動車に目をこらした





「金持ちでーす…ってか?」

マサタカは顔をしかめて、自宅に向かう。



自動車と擦れ違うその瞬間



「すみません!」

「?」






自動車の左後部座席の窓を開けて、誰かがマサタカに声を掛けた。







この誰にでも、或いはどんなマンガにでもありそうな在り来たりな出会いが



後の人生にさえ響くものであることには





まだ、この秀才は気付いていない。