むしろ、まともに相手をせず逃げたほうが無難ではないのか。

最近、物騒な事件が頻繁に起こってるしな……。


よし、逃げよう。


「……すいません、俺急いでるんでっ!」

そう言いながらペダルに乗せた足に力をこめる。

一気に男の脇を抜けると、更に加速するために立ち漕ぎの姿勢をとる。

その時だった。

「君は金が欲しくないかっ!?」

大きな声だった。

およそ風貌に似つかわしくないほど大きな声が、暗闇の静寂を駆け抜けた。

金。

その一言に反応した俺は、ブレーキを力いっぱい握りしめた。