涙のスイッチ

あたしは。


こんな風に痛みをわかってくれて諭してくれる誰かが欲しかったのかもしれない。


“甘えてる”


そんな風に片付けてしまう大人ではなく、等身大の誰か。


「だからさ、途中でリタイアなんて、選ぶなよ?」


「…っ…っ…。うん…」


「なんなら、さ。オレが…オレが手を引いて歩こうか…?」


「え…?」


「いや…。なんつーか、その…。だから1人で歩けないんなら誰か一緒に歩きゃいいだろ?つまづいても手を差し延べられて、登り坂では背中を押すヤツ。今、美和にはそんなヤツいねーんだから、だから危なっかししいんだよッ。オレでいいかって聞いてんのッ!」


「う、うん…」


「なら、ヨシ。いいか?もう投げやりな事はしてくれるな。オレが…オレが美和の手を引くから、な?」


「うん…。ありがとう」


「じゃ、オレ帰るな。で、さ…。明日…ヒマか?」


「…え?」


「明日!昼過ぎにオレん家来いっつってんの。あのバッグ返すから。じゃあな!」


「あっ…!コート!」


迪也くんはコートを受け取りもせず、さっさと帰ってしまった。


あたしとジョンは遠ざかっていく雪を踏み鳴らす足音が消えるまで、そこに立っていた。