よし、これでこっちは攻守共に完璧となった。
 いくら吸血鬼が脅威といえど、この完全武装の私を敵に回そうとは思うまい。
 人外の鬼とは言え、然るべき手段を用いれば死ぬのだ。
 死んでしまうのだ。
 多くの弱点を持つもの、ヴァンパイア。
 盛者必衰の理をあらわす。
 ただ春の夜の夢のごとし。
 猛き者もついには滅びぬ。
 手を組んで、うーん、と伸びをする私。
 よく考えたら、今日は色々あったなあ……
 逃げたり、隠れたり、追い回されたり。
 時計を見れば、既に日が変わっていた。
 あんまり遅くまでお邪魔したらまずいよね、と思いつつも、座り込む。
 うん。
 疲れちゃったし、私も少し休もう。
 大樹の部屋にはもちろん私の着替えなんて置いてないから、浴衣のままって事になるけど。
 ……まあ、ちょっと休んでいくくらいなら良いでしょ。
 しかし私を差し置いて布団を独り占めとは、なかなか大した彼氏だこと。
 と、悪態をついてみても仕方がない。
 ふかふかなカーペットの上に座布団を何枚か並べ、私もごろりと横になった。
 夏の香りに満ちた部屋。
 扇風機の静かな回転音。
 外から聞こえる虫の声。
 明かりを消してしまえば、私の頭の中から吸血鬼の脅威の事なんてもう消えてしまっていた。
 そう、戦士には休息が必要なのだ。
 むしろ、戦士は戦っている時間よりも戦っていない時間の方が圧倒的に長いのだ。
 なら、私も休もう。
 来るべき時に備える為に。
 私の意識も、程なくして夜の闇に溶けていくのだった──
 おやすみなさい。

 …………。