アメリカの英雄・レオ=ハウエルの取材を終えた私は、次の仕事の為、日本へ帰国すると同時にある人物の元へと向かった。本名不詳、通称“爆風(ブラスト)”。彼もまた、かつてエアスラストで世界記録を何度も塗り替えた猛者である。マイクを向けられた彼は私の印象──私は彼が無口な性格だと思っていた──とは異なり、非常に饒舌に語ってくれた。
 過ぎ去ったあの頃を、懐かしむかのように……

 懐かしいな、あれは確かに天才と呼ぶべき存在だった。比喩なんかじゃなく、本当に人ではない何かと対峙している気分にさせられたとも。しかも驚くべき事に、いや、見た目通りと言うか、ともあれ彼はまだ発展途上でね。共に走る最中ですら成長を続けていて、俺が本気を出せば出すほど差を縮めて来るんだ。あんな恐怖は先にも後にも味わった事は無いな。しかし、それ以上に楽しいのだから、エアスラストはたまらないね、まったく。
 俺かい? 知っての通り、俺はあの試合でエアスラストは引退だよ。右足が完全にお釈迦になってしまったからな。とてもじゃないが、走り続けられる状態ではなかったさ。歩いたり走ったり程度には支障は無いが、骨が弱くなったせいでここ一番での踏ん張りが利かなくなってね。昔のようには跳べなくなったのは残念だが、今でもたまに一般向けのコースを走ったりはしているよ。
 その後は、ランナー時代に身に付けた知識と技術を活かして、ボードの加工師として業界に携わっている。今は確かに規模こそ小さいが、これでもボードを改造してくれって依頼が世界中から来てるんだぜ?
 金を貯めたら有志を募って、エアスラスト専門のブランドを立ち上げるつもりなんだ。ボードの改造は勿論、ボードや各種器具の販売、修理、開発、色々と手を出してみるつもりさ。君はエアスラストを走るのかい? 走るのなら、今なら速くて丈夫で軽くなるよう、安くボードを改造し──ああ、そうか。残念だ。
 話が逸れたな、今は彼の話だったか。余計な話がしたくなるのは、歳のせいかね。
 そうだな。忘れはしない、あれは今日のような良く晴れたエアスラスト日和だった……