貴方はその呼び名から、何を連想するだろうか。
 私なら──そうだなあ、その数々の特徴の中でも、あまりの弱点の多さを挙げよう。
 曰く、日光に弱い。
 曰く、銀に弱い。
 曰く、十字架に弱い。
 曰く、ニンニクの香りに弱い。
 曰く、川などの流れる水を越えられない。
 他にも、首を切って両足の間に置けば死ぬとか、心臓に杭を打てば死ぬとか、体を焼いて川に捨てるとか、やけに生物臭いやっつけ方も含めると、それはもう無数の滅ぼし方が存在すると言える。
“ヴァンパイア”。
 勿論ヴァンパイアにまつわる伝説は世界中に存在する為、必ずしも先述の全てが正しいとは限らない。
 しかも、漫画、小説、ゲーム、映画、その他いろんなメディアを通じて都合良く脚色・曲解された設定が蔓延している為、どこまでが嘘でどこまでが本当なのか、私には皆目見当も付かない。
 それにしても、この弱点の多さ。
 これは最早、脅威とは言えなくはなかろうか。
 否。
 断じてそんな事は無い。
“吸血鬼”。
 それは、そんなに甘く、温く、緩い存在ではない。
 彼女達は現れる。
 毎年必ず現れる。
 どこからともなくやってきて、夜の街を我が物顔で闊歩し、人の生き血を啜り、そして人知れず飛び去っていくのだ。
“ヴァンパイア”。
 曰く、霧に姿を変えられる。
 曰く、太陽光を苦手とする。
 曰く、鳥や獣に変身出来る。
 空を飛ぶ。
 魔法を使う。
 鉄の武器でも傷を負わない。
 人間よりも遙かに優れた身体性能を持つ。
 そして──血を吸った者を眷属、または配下をとする呪いを持つ。
 ……なんだ、ほとんど無敵じゃない。
 確かに弱点は多いけれど、ここまで存在として強いモノならば、人間如きを相手取るにはハンディキャップにはならないだろう。
 実在するならば、恐怖すべきモノである。
 しかし、人類は奴らに滅ぼされる事などなく、それどころか我が物顔で地球の支配者を気取っている有様だ。
 彼女等は実在しないのか?
 彼女等は脅威たりえないのか?
 否。
 血を吸う鬼は、確かに存在するのだ。
 そしてそれは、脅威に他ならない。
 何故そう言い切れるかって?

 決まってるじゃない。
 私も、そして貴方も、毎年のように彼女達と戦っているのだから。