「ッ!?」
 唐突と言えば唐突なその気配に戦慄し、私はその場で跳ね起き──ようとして、並べられた座布団の上へ再び倒れ込んだ。
 そういえば、浴衣のまま寝ちゃったんだけ。
 無理に動いたら、破けちゃうよね。
 ああ……こんなに皺寄っちゃた、どうしよう。
 …………。
 何を言ってんだ私は!
 いま、確かに不穏な気配があったじゃない!
 窓から差し込む街灯の灯りを頼りに、部屋を見渡してみる。
 座布団の上でゆっくりと身を起こす、私。
 それから、未だ寝たきりの大樹。
 ……当たり前だけど、彼の部屋に居るのは私達二人だけ、のはず。
 周りを警戒しながら、立ち上がって壁のスイッチを押してみる。
 ぱちん、と無機質な音がして、天井に備え付けられた照明が白光を放った。
 やっぱり、私達二人しか居ない。
 しかし、確かにさっき何かの気配を感じたと思うんだけどな……
 とりあえず、落ち着こう。
 気配は確かにあった。
 それは、眠りが浅かったとは言え睡眠中の私を覚醒させるほど、存在感のあるものだった、と思う。
 それに、右腕。
「何か、触った──?」
 確かに私の右腕に触れた“何か”があったはず。
 服でもない。
 座布団や床でもない。
 もっと違う何か。
 一瞬だけ脳裏に嫌な影がよぎるものの、私はすぐにそれを振り払った。
 有り得ない。
 この部屋は結界によって、完全に守られている。
 あの鬼が侵入してくるなんて、絶対に有るはずが無い。
 じゃあ、さっきのは何?
 泥棒でも入って来た?
 それも考えにくいよね、と思いつつも、カーテンをめくって窓を確認してみる。

 ……窓が、半開きになっていた。

「嘘! 吸血鬼の次は泥棒!? もう、今日はどうなってるの!?」
 叫んでみてから慌てて口を塞いでみたけど、それまもう後の祭り。
 壁に掛けてある時計が見えたから。
 草木も眠る、丑三つ刻だった。
 近所迷惑だった。
 ちなみに今晩は祭りの後、なあんて。
 寒いっ!
 夏なのに寒いっ!
「あれ……?」
 しかし、すぐに冷静さを取り戻した私は、その場の不振な点に気がついた。
 窓際に並べられた、謎の小物達。
 大樹の趣味だ。