斎木俊英は、完璧主義の女と短気な男の間に産まれた子どもだ。


2人が愛し合って産まれたはずの俊英は、幼いころから両親のぶつかり合いを目の当たりにしていた。


完璧主義と短気のぶつかり合いでは、ヒステリックと暴力しか生まれず、俊英の耳には母の叫ぶ声と食器が割れるつんざく音、そして父が力いっぱい母を殴る鈍い音が絶え間なく響いていた。

幼い俊英には、2人がなぜ喧嘩をしているのかわからなかった。


その矛先が俊英に変わったのは、俊英がまだ5歳にも満たない頃だった。




―――あんたなんか生まなければ


毎日のように母から浴びせられた。
俊英は幼いながらにも自分の存在意義を見いだせずにいた。

そのことを泣けば、父が「うるさい」と殴りに来る。
嗚咽を噛み殺して泣き続けた。


しかし逃げ出すことはしなかった。

逃げ場などないからだ。