なぎ倒された僕の体に、定岡がゆっくり近付いてくる。


「なんだ、もうへばったのかよ。口先だけはいっちょ前のくせにだらしねぇ」



定岡が僕の襟首をぐいっと掴みあげて目が合う。


「………てた」

「あぁ?」

「この瞬間を待っていたよ、定岡。」



一番接近できる瞬間を、待っていた。


定岡の額に、そっと触れた。

割れ物を扱うかのように。



「これしか方法がないんだ」

「なに、を……!」



君を歪ませたもの、ここで経験した痛みを




「消して、あげる」




定岡の記憶の一部が、ディラックの海に融ける。



今度こそ、どうか、幸せな人生を。