嫁と駅前商店街へ買い物に。必要な物は全部買い揃え帰途につこうとしたその時、サラリーマン風の男に声をかけられた。
 「すみません。ジャパンテレビです。尖閣諸島の漁船問題について一般の方のインタビューを行ってるんですが、ご協力いただけませんか」
 視線をずらすと、男の後ろには重たそうな機材を持ったカメラマンまでいるではないか。ご丁寧にカメラはこちらを向いている。本物の街頭インタビュー…。まさか生放送じゃないよな。確か、ジャパンテレビには今の時間、生放送の情報番組やニュースはなかったはずだと曖昧な記憶を手繰りよせる。
 テレビはずっと観る側だった。自分が画面に写るなんて考えたこともない。
 逃げよう。もしここで的外れなコメントをすると、全国ネット放送で無知をさらけ出し恥をかくことにもなりかねない。何と言って断ろうか計りかねてると、嫁は私に半分隠れるように後ずさっていて
 「私難しい事わからないからぱぱ答えてよ」
 お前までテレビで何か喋れ、と。夫婦なんだから私の恥はお前の恥じゃないのか。どうなっても知らないからな。私は覚悟を決め、
 「わかりました。私でよければ」
 と、インタビューに応じる。
 そして人生で初めてテレビカメラの前で物を言うという経験をした。緊張で何を言ったかなんて覚えていない。