男の正体を知った俺は驚いて言葉も出せずにただその場に立ち尽くしていた。





俺の目の前に現れたこの男は麗華を傷つけた、あの男だった。





「…麗華に会わせてくれ」


「は?…何言ってんだよ」




男は俺の目の前に来るなり真剣な表情でとんでもない事を言い出した。





いや、そもそもどうやってこいつは俺が働いてるこの店を知り得たのだろうか。




そして、何故敢えて俺の所に来たのか…全く理解出来無かった。






「あれから麗華が帰って来ねぇんだよ…どうせあんたの所に居るんだろ?」




この男の言う通り麗華は俺の所に居るが…こいつには…こいつだけには絶対会わせたくはない。




俺にそんな権限なんかねぇって分かってても、今こいつと会ってしまえば…また同じ事の繰り返しだ。





「…俺の所には居ねぇよ」




だから、俺は簡単な嘘をつく。




俺にとってこんな嘘は何の罪悪感すら感じない。





麗華がこれ以上傷つかない為にも…俺はどうにかして嘘を守り通さなければならなかった。