そしてこの仕事を始めてから段々と酒に強くなっていった。





常に指名が重なった状態で1日に何十ものテーブルにつく事など当たり前だった。





その各テーブルで自分でも把握出来ない程の大量の酒を飲みながら客の相手をして…





その生活を何年もの間続けている内に気づけば幾らでも飲めるようになっていた。






得に酒が大好きだという訳でも無かったけど…ただ酒を飲んでいる時だけは身も心も楽になれるような気がした。







「じゃあ…乾杯しましょうか」


「うん、そうね」





嘘の笑顔を浮かべながらグラスを手に持って客と乾杯をする。





仕事の時以外でも俺は自然に笑うことは無くなり…いつしか笑う事が完全に出来なくなっていた。






こうやって女が喜ぶような笑顔を常に作り上げて…笑顔以外の表情も全てがただ嘘の作りものでしかなかった。






心から笑った記憶など俺には無かった。過去をどれだけ辿っても俺には幸せな楽しい思い出とか…そんなものは何処にも無い。





俺は過去を捨て自分を偽る事でずっと今まで生きてこれた。





捨てる価値すら無い様な見苦しい過去を…自分の記憶から消し去ってしまえたなら、俺はどれ程楽になれるだろうか。





あの過去の闇から俺は未だ抜け出せずに今もずっと苦しみ続けていた。





俺の過去も未来も全てがずっと真っ暗なままだった…