甘い香水と酒の匂いに包まれる店内。





「…ぃくん!琉依くん!」


「あ…はい」


「もうっ!ちゃんと聞いてる〜?」




ヤバい…全然聞いて無かった。




「もちろんですよ。藍子さんの話はいつも楽しく聞いてます」


「本当に? 琉依くんがそう言ってくれるなら信じるけど…ちゃんと聞いてねっ♪」


「はい、もちろん…」




俺が慌てて取り繕った言葉を聞いて安心した様に女はまた再び嬉しそうに喋り出した。




なんとか無事にごまかせたけど…さすがに今回ばかりは危なかった。





仕事中にぼんやりする事など今まで一度も無かった。





どんなに詰まらない話だろうと嘘の表情作って完璧に聞いていたはずだった。




…俺らしくねぇな。





どうも今日はさっきから調子が出ない。








ここにいる客は皆、琉依に会いに来ているだけ…だから俺はただ琉依として客を喜ばせればいいだけだ。




そう言い聞かせて完璧に自分を偽る事に専念した。