「じゃあ…そろそろ行くね?」
「あ…あぁ、じゃあな」
柄にも無くぼんやりしていた間に莉奈は助手席から降りて、俺のいる運転席側から声を掛けていた。
「ありがとう。凌が優しい人で本当によかった…」
莉奈は笑顔で手を振りながら別れを告げた後、店の中へと消えていった。
その後ろ姿を見送ると莉奈を助手席に乗せていたのが何故か遠い昔の事の様に感じた。
昨日まであれほど迷惑がっていたくせに…
誰もいない助手席を見て虚しいとさえ感じている自分がいた。
別れ際に莉奈は俺を優しい人間だと言ったが、俺は決して優しい人間なんかじゃ無くて…
本当の俺は女を騙すために優しいフリをしている最低で腐った人間だ。
最後にそう言っておくべきだっただろうか…?