「あのさ…名前、聞いてもいい?」
気不味そうに俯く女を見て何と無く俺の頭の中に浮かんだ言葉を投げ掛けてみた。
「…莉奈(リナ)」
女はしばらく考え込んだ様に黙った後俯いたまま静かに答えた。
「ふーん、莉奈か…」
今まで女の名前なんか気にしたことすら無かった俺がこの女の名前を何故聞いたのか…自分でも分からなかった。
「…あなたは?」
「ん?…俺?」
自分を指さしながら確認すると莉奈はゆっくりと首を縦に振った。
「俺は…凌。柳瀬 凌」
どんなに親しい奴にでも…誰であろうと教えた事など無かったはずの本名。
どんな時でも琉依として生きてきた俺が無意識の内に凌として名乗っていた。
もう遥か昔に忘れ去っていたはずだったのに…何故この女には伝えたのだろうか。
出会ったばかりのこの女に何の感情すら抱いてねぇのに……ただただ自分でも不思議だった。