俺が店に着いた頃にはもう既に沢山のホスト達が控室でそれぞれ営業を掛けたり髪をセットしたりしていた。
店の中は薄暗いライトだけが照らしていてシックに纏めた家具達がより一層高級感を漂わせている。
そして――…開店時間を迎えた頃。
「「ようこそ、shelterへ!!」」
派手に盛った髪、白や黒の派手なスーツに身を包んだホスト数人が店の玄関に立ち並び客を迎え入れる。
客はそれぞれ少し顔を赤く染めたり期待に満ちた表情をしながら嬉しそうに店の中へと入って行く。
開店して1時間も経たない内に店の中は沢山の客で溢れ返り既に満席状態となっていた。
これだけの客が来れば当然の様に指名は重なって、ゆっくりと息をつく暇も無いほど忙しく幾つものテーブルを行き来していた。
「琉依くん、あたしのこと好き〜?」
俺の体に抱き着きながら上目遣いで訊ねてくる一人の客。
客の中にはこんな感じで甘ったるい声を出しながらベタベタと引っ付いてくる女もいる。
恋人気分を味わいたい…それだけの為に大量の金を使うこの客を始めとする全ての客の気持ちが俺には全く理解出来ない。
正直に言えば、スーツにシワが付くし香水の匂いがキツいし…マジで迷惑している。
心の中では迷惑がっていてもそんな事はホストとしても一人の人間としても言いにくい。
客に奉仕する事がホストの義務であって、例え嫌だとしても嘘をついてでも客に喜んで貰わないといけない。
「もちろん……好きです」
だから俺は作り上げた甘い表情を向けながら耳元で客が喜ぶ様な嘘を囁いた。
本音を隠す為にどんな無茶な状況であろうと客の前では完璧に自分を偽らなければならない。
それもホストの義務でもあり使命でもある。
ホストは女に夢を見させてあげる仕事…世間ではそう言われているらしい。