いつもの真っ黒のスーツではなく、昼の街に居ても馴染む様な格好をして約束の場所に向かった。




眠気覚ましの為に缶コーヒーを飲みながら数分が経った頃。




「ごめんね、遅くなっちゃって〜」




精一杯のお洒落をした30代半ばの女が慌てて俺の所へ小走りで向かって来た。




「いえ、俺が少し早く来過ぎただけですよ」


「そう?琉依くんは本当に優しいわねっ♪」




女は嬉しそうに俺の腕を掴んで通り過ぎる人達に見せ付けるかの様に自分の胸へ擦り寄せた。




独占しているかの様な気分を味わえる同伴は客にとってはおそらくとても嬉しい事なのだろう。




俺にとって嬉しい事だらけとは限らないけど、売上に繋げる為には仕方ない。





「どこに行きますか?」


「うん、そうねぇ…じゃあ…お昼ご飯でも食べに行く〜?」


「そうですね。じゃ、行きましょうか」




女の肩を寄せながら俺は人通りの多い昼の街を歩いた。




制服を着た高校生やしわしわのスーツを着たサラリーマンが定食屋やファミレスの前に人だかりを作りながら並んでいる。




どうやら俺はそんな当たり前の昼の光景もいつしか忘れ掛けてしまっていた様だった。