「ううん。あたしもずっと琉依くんに会いたかった…」






女は酒と香水の匂いを身に纏ったまま俺の体にきつく抱き着いた。





この女は俺と同じ世界で働く人間の一人でいわゆるキャバ嬢と呼ばれる仕事をしている。






だからと言って親近感を抱いているって訳では無くて俺が連絡すればすぐに来る、ただの都合のいい女の内の一人でしかない。





この女に何の特別な感情もないし恋人でもなければ…もちろん、愛している訳でもない。







「んっ…琉依くん…」





女は甘い声で何度も呼ぶ。





光が完全に遮られた暗い部屋に響くその声にも勿論、答えたりはしない。






俺は琉依じゃない。だから言葉を掛ける必要なんて無い。






どれだけ女が願っていたとしても俺と女の感情が一致する事はきっと無い。






俺は仕事でも仕事以外でもずっと…琉依として訳もなく暮らしてきた。





本来の自分がどんな人間だったのかも忘れる程、長い間自分を偽りながら生きてきた。






昔から俺は沢山の女を騙して都合のいい様に利用しながら生きてきた最低な人間だ。





俺はずっと同じ様な事を繰り返してただ意味もなく愛してるフリをし続けていた。




それがどれだけ女を苦しめているかを自覚していながら、俺はこの生き方を止め様とはしなかった。





見た目だけで判断して簡単に騙される奴が悪いと歪んだ考えを持つ事で全てを解決しようとしていた。