夏休みに入り、学校にはまばらに生徒がいる。
部活のために出てくる生徒や、勉強しに来る生徒。
下校時間になって学校の見回りをしていると、音楽室からフルートの音が聞こえてきた。
ドアを開けなくてもわかる。
これは、絶対あいつの“音”だって。
「おら、下校時間だぞー…って、なんだお前か。
お前フルートうまいのな」
なんて、わざとらしく言ってみる。
一瞬こっちを見たあいつが急に目をそらした。
…あいつ、泣いてなかったか?
「今日、コンクールだったんだけど予選通れなかったんだ。
あんなにがんばったのになぁ…」
やっぱり、泣いてたんだ。
でも今は俺がいるから、泣かないように我慢している。
あー…。
だめだ。
俺、あいつの泣いた顔は見たくないけど、辛いのを必死に我慢するあいつはもっと見たくない。
気付いたら、俺はあいつを抱きしめていた。

