駅前のカフェ。
といってもバーガーショップなのだが、ここくらいしかカフェと呼べる店はない。
「東京に比べたらさみしい街よね」
他の街が活性化していく中、この駅だけ取り残された感じだ。
そして私も、この街を出ずに結局地元の仕事に落ち着いてしまった。
けれど、今となってはそれもよかったのかも。地元にいたから谷口くんと再会できたのだから。

私がお店について、しばらくしてから谷口くんの姿が見えた。
こっちこっち、と手をふる。

待ちに待った二人きりで話せる時間が!

と期待が高まったその時、私は我が目を疑った。
鳩が豆鉄砲をくらったようなことなんて体験したことがなかった。
たぶん、これが始めてだろう。

谷口くんが手を引いていたのは小さな女の子だった。

「ごめん、遅くなって。栞、ちゃんと座って」

私は状況が理解できないまま、目を丸くして谷口くんを見ていた。
それに気づいて、彼が慌てて説明を始めた。

「ごめん、びっくりしたよな。こいつ、俺の娘で栞っていうんだ」

娘…!?

神様というのは本当に人に試練を与えたがる、とんだサディストだと思うことがある。

私が胸をときめかせていた人に娘がいたという衝撃。
この気持ちのやり場をどうしたらいいのだろう。

何も言えない私に彼も戸惑い始めた。

「ごめん、仕事中に突然娘がいるなんて言ったら話が長くなるし困らせるかなと思って…」

栞という女の子も、私が動かないのが不思議なようで、上目遣いで私をじっと見ていた。

「びっくりしたのと状況がよくわからないんだけど、取り合えずびっくりした。子供の相談なら喜んで受けるよ」

我に帰った私は精一杯平静を装って答えた。
本当は失恋と惨めさで泣きたい気持ちだ。

「ありがとう。取り合えず最初から話さないとな…」

そして彼はこれまでの経緯を話し始めた。