フワフワした気分のまま、勤務終了が近づいている。
「彩ちゃん、今日どうしたの?なんか独り言多いし」

先輩の由紀さんにいわれてギクっとした。
「相変わらず顔だけじゃなくていろんなところに出やすいのね」
「いろんな所って、ほかに何があるんですかー?」

平和な午後は過ぎていく。
けれど子どもはそんなに甘くはない。

部屋から泣き声がした。
男の子2人がケンカをしているようだ。

「ゆうと君が頭けったんだよー」
「だいきくんの頭が足のところにあったの」

まったく、かわいい理由のケンカで何よりだ。

「じゃあ、二人とも仲直りして、先生と一緒に遊ぼう?」
「うん、ごめんね」

純粋な子どもたちと接していると、自然な気持ちになれるものだ。

「ふじもりせんせい、きょうずっとにやにやしてるー」

そして子どもは意外とするどいのである。



そして待ちに待った勤務終了時間になった。

「じゃあ、お疲れ様です。先輩、後よろしくお願いします」

保育園を後にし、すぐ携帯電話をかけた。

「谷口君?今終わったよ。お店に向かってる」

わかった。俺も今から行く。
と電話は切れた。

最近こんなにうきうきしたことはあったかしら。
どうせならもっとおしゃれしてくればよかった。

そんなことを思いながら約束の店に着いた。

この後、この気持ちが一気に現実に引き戻されることになる。

でも、それが全ての始まりだった。