谷口君に会ってから、私は何かフワフワしている。
明日の朝も会えないかな。いつもそんなことを考えてる。

「アドレス聞いとけばよかったなぁー」
なにかあったら聞いてよとは言ったものの、彼との連絡手段はない。
また彼が保育園の前を通るのを待つしかないのだ。

失敗したーとうなだれてベッドから起き上がる。
保母さんの朝は早い。
朝が苦手な私も、慣れたもので今ではお弁当なんか作っていったりもする。
もちろん給食があるのだが、そんな軽食では一日はまるで持たない。

出勤し、また保育園の前の掃除をするが、ここ3日彼を見なかった。
「いつも時間が合うとは限らないよね」
と、自分に言い聞かせる。

午後になると、園児たちも疲れ昼寝の時間になる。
この時間は庭の水やり、ハムスターのえさやりに追われる。

門の近くで水やりをしていると、突然人が現れた。
「あっ、すいません!水かかってませんか?」
急いで謝ると、それは谷口君だった。

「あ、藤森!ちょうどよかった。」
仕事の時間じゃないのかな?と思いながらも、また会えた嬉しさのほうが大きかった。
「どうしたの?なにかあった?」
「今度ちょっと話がある。仕事の終わりか休みの日に会ってくれないか?」
と言って、アドレスと電話番号を書いた紙を渡された。

―なに、この急すぎる展開!

私ははやる気持ちを抑えながら、今日は早番だから夕方には帰れることを伝えた。

「じゃあ、駅前のカフェでいいかな?終わったら連絡頂戴」

といって、彼は片手で悪いなというジェスチャーをして帰って行った。

「全然悪くないわ」

私はフワフワしながら独り言を言っていた。