私は駅の近くの保育園で保母さんをしている。今年で3年目。
1年目はあっという間で、2年目は子どもたちの扱いにも慣れて、3年目になって5歳児の担当になった。
3年といってもまだまだペーペーだから、かわいいよりも元気が勝ってきた5歳児たちに振り回されないかしら。

そんなたわいもないことを考えて、また新しい1年を迎えようとしていた、春。

朝、保育園の前の掃除していると、突然声をかけられた。

「藤森さん?」
振り向くと、そこには若いサラリーマンが立っていた。
あれ?見覚えがあるような。でもだれだっけ?と頭を巡らせる私。

「やっぱり藤森だ。俺、3高だったの谷口だよ。B組の…」
「わっ、谷口君?久しぶり過ぎてわからなかった!」

声をかけてきたのは高校の同級生だった谷口祐樹だった。
とはいっても彼は文武両道で漫画に出てきそうな人気者で、当時はあまり話したことはなかった。

「藤森、ここで保母さんやってるの?」
「そう。3年くらいやってるの。谷口君も就職したんだね。」

私は勝手に、頭のいい彼のことだからさぞかしいい企業に就職したのだろうと思っていた。
「うん、まぁ、なんとかね。今は仕事があるだけいいよね。」
しかし彼から昔のようなはつらつとした面影は感じない。

「しばらく東京にいたんだけど、ちょっと前にこっちに戻ってきたんだ。こっちもだいぶ変わったから、わからないことも多いな。」
「そうだったんだ。なんかあったら聞いてよ。私ずっと地元民だからさ。」

ありがとう、じゃ。というと、彼は通勤の人ごみの中に埋もれていった。