【奈緒side】

 昼休み、海翔に「俺ん家、来る?」って聞かれて一瞬、驚いた。
 でも行くことにした。
 中学生時代、初めての彼氏ともシてなかったし、海翔が私の初めての人になるんだと思うと嬉しい!

「わりぃ。奈緒、待った?」

 そう言って、小走りで走ってくる、私の愛しき人、海翔。

「ううん。大丈夫」
「じゃあ、行くか」
「うん」

 海翔ん家は、ここから電車で20分掛かる。私はいつも、海翔とは真逆の電車で帰るから、駅までは15分しかない。
 でも、今日は長い時間、一緒に居れる!

 海翔の友達の希一君の話やクラスの話をしてたら、あっと言う間に海翔ん家に着いた。
 海翔は一人暮らしらしい。そんなことも知らないなんて彼女として恥ずかしい…。

「上がれよ」
「あっ…うん」

 うわぁ。綺麗…。海翔って綺麗好きだったけ…?
 そんなことも私、知らない…。

「座れよ」

 と言って海翔は自分の座ってるソファーの隣を叩いた。

「…うん」
「…」
「…」

 沈黙。こんなに気まずかったけ?

「何飲む?」

 沈黙を破ったのは海翔だった。

「あっ…何でも良い」
「じゃあ、レモンティーでも良い?」
「うん…」

 レモンティー。海翔っぽくない。可愛いとこあるじゃん。

「何、ニヤついてんだよ」
「えっ…私、ニヤついてた?」
「あぁ」

 嘘…!恥ずかしい///

「ほら」

 そう言って海翔は私の隣に座った。

「ありがと」
「あぁ…」
「…」
「…」

 やはり、沈黙。この空気なんとかしなくちゃ!

「レモンティーなんて、海翔、珍しいね!」
「…そ? 俺、レモンティー好きなんだよ」

 えっ…知らなかった。

「そっ…そうなんだ…」
「あぁ…」
 
 私、海翔のこと、何にも知らない。
 一人暮らしの事も、綺麗好きなことも、レモンティー好きなことも…何も。
 情けない…。彼女なのに…彼氏のこと、何も知らないなんて…。
 いつも海翔の周りに居るギャルたちの方が私より詳しいんじゃないかな?
 海翔も呆れるよね…。こんな私みたいのが彼女じゃあ…。
 今まで、目に溜まってた涙が一気にこぼれ落ちた。