【奈緒side】

 私は今耳を疑う言葉を聞いた。
 ――― 別れよう。

「えっ…?」

 思わず聞き返した。はっきり聞こえてるはずなのに…。

「…別れよう」

 嘘だ…。嘘だ。絶対嘘だ!

「う、嘘だよね…?」

 お願い嘘だって言って…。いつも私をからかう様に、あの太陽のような笑顔で「バカじゃねぇの。嘘だっつーの!」って言ってよ…。

「…悪ぃ、本気だ」
「なっ何で!? 私何かした!? 海翔が不愉快に思う部分があるなら直すよ! だから…」

 情けない…。大人の女性なら、あっさり答えを返すのに、私は海翔を失いたくない一心でカッコ悪い事を言っている。
 カッコ悪くても良い。一緒にいたい!

「何にもしてねぇよ」
「じゃあ何で!?」
「しつけぇよ。元カレとより戻してろよ」
「っ! 空我の事なら心配しないで! 私はっ…」
「うるせぇっ!! これで俺達は終わりだ。もう…話しかけんな」

 海翔は私の期待してる言葉と真逆の言葉を吐き捨て屋上から去って行った。
 その背中は「もう関わんな」と言った様に海翔の意思が強い事が伝わった。

 私は声も出ないくらい泣いていた。
 この涙を海翔は、もう拭ってはくれない…。

 理由さえ分かれば改善のしようがあるのに一切教えてくれない。
 別れたくない。彼女でいたい。その気持ちだけが心をぐるぐる回ってる。

 海翔…。どうしたら戻ってきてくれるの…?