【海翔side】

 俺は泣き崩れた奈緒を元カレの海原ってヤツを置いて来て1人屋上にいた。

 何してんだろうな…俺。
 海原がより戻したいって言ってるのに2人きりにして。
 奈緒と別れたくないのは本音で、彼氏の俺なのに過去の奈緒を知ってるのはアイツで、それが妙にイラついた。
 不器用な自分にイライラする…。

 その時勢い良く屋上のドアが開いた。

「奈緒っ! …何だお前か」

 入って来たのは海原だった。
 姿を見せるなり奈緒の名前を叫びやがった。

「あぁ?」
「奈緒は」
「…いねぇよ」
「そうか…」

 用事済ませたらさっさと行けよ。

「…いつまでいる気だよ」
「この際だから、はっきりさせたいと思う」
「はぁ? 何だよ」
「お前は奈緒の何を知っている」
「はぁ? いきなり何だし」
「俺は少なくとも奈緒の事をお前より知っている。奈緒将来の夢、好きな事、好きな本…沢山ある。お前は何を知っている」

 俺は奈緒の何を…。何も知らない…。

「…」
「何も知らないようだね」
「…っ」
「奈緒は渡さない。お前だけには絶対!」

 最後に言い放って海原は屋上から消えた。
 俺はただただ放心状態でたたずんでるだけだった。

 俺は何も奈緒の事を知らない。一時期奈緒が「海翔の事何も知らない」って言って不安がって泣いてた事があった。好きなヤツの事を知らないってこんなにも不安になるとは思わなかった…。

 俺には奈緒の隣にいる資格がねぇのか…?
 アイツだけには負けたくねぇのに…。情けねぇ…。
 奈緒の事ちゃんと分かってるアイツの方が奈緒は幸せなんだろうか?
 奈緒が俺といて不幸せなら…いっそ別れた方が良いだろうか…?

 その時再び屋上のドアが開いた。
 そこには息切れの奈緒がいた。

「海翔っ!!!」

 奈緒は泣きそうな目で俺に近づいてきた。
 思わず抱きしめてしまいそうになった。

「海翔…こんなとこに…いたんだね…」
「あぁ…」

 俺はわざと目をさらして言った。

「あのねっ…私…」

 もう…俺達無理だ…。

 アイツに幸せにしてもらえ…奈緒。

「俺達、別れよう」