「俺が行くなんて言わなかったら奈緒ちゃん、こんなに傷つく事なかったのに…」
「…うぅ…」
「ちょっ、奈緒ちゃん!?」
「ご、ごめん」

 私は希一君の優しい言葉で自分の中の糸がプツンと切れたみたいに涙が溢れてきた。
 希一君は私の背中をさすった。

「俺の責任だよな。ごめん。」
「…うっ。ち、違うよ? …うっ。私自身が弱い…から…こんな事で泣いちゃうんだよ…」
「奈緒ちゃん…帰ろ」
「…うん」
「海翔ー! 俺、奈緒ちゃんと先旅館に帰るわ」
「…何かあったのか」
「何でもねぇよ」
「おい! 奈緒、お前!!」
「じゃあなぁ、行こう」

 海翔が私に何か言おうとしてた。
 今は何も聞きたくない。私の泣き顔も見られたくない。海翔の事も考えたくない。
 今は気持ちを分かってくれる希一君といたい…。

「奈緒…」
「何ぃー、奈緒ちゃん達、帰っちゃったの?」
「…」
「いいじゃん、やっと2人きりになれたんだし」

 仁南は海翔に抱き付いた。

「…うっせぇんだよ。離れろ」

 海翔は小声で言った。

「今、何て言ったの?」
「黙れ!!」
「か、海翔君?」
「奈緒が…泣いてた」
「えっ…?」

 海翔は走り出そうとした。

「待って!」
「離せよ!」
「行かないで! 一緒にいてよ!」
「ウザいんだよ!」
 
 海翔はすがり付く仁南を離して走り出した。