それにしても迂闊だった・・
まさか、こんな女が現れるとは。


( 兎に角、今、会わなければいい )


・・そう自分を落ち着かせ、
肩が動く大きな溜息を
できるだけ隠してゆっくりと吐く。

逃げ出せたらいいんだが

"ちゃんと見ててやる"と
云った以上、
放り出して行く訳にもいかない。

「じゃあ今、
暫くは院内にも入れねえな。」


俺は諦めたかにもう一度
ベンチに座り直し、
事情を知りたそうな女の顔を見た。


「・・一度死んだ人間が神の使いと
なって下界をウロウロしてる・・
要はバレちゃまずいってんで
口封じされちまうってコトさ・・。」

「アナタに・・?」

「いいや・・お偉い天使様に。」


首を横に振りながら
人差し指を天に向けた。

煙草を取り出して1本咥えると
ジッポーをポケットに探し出す。


「云う事を聞いてくれないと、
お前は声を失い、光を失う。
そうはなりたくないだろ・・?」


彼女はリスト外の部外者・・
だから命までは取られない。

問題は
リストに載っている麻美である。


「そりゃ・・ええ。でも私、
絶対、誰にも云いませ・・、!!」

「・・・!?」


丁度、銀色のライターのキャップ
を"カシャン"と開けた時だった。

自分の顔に伸びて来る手が
ピカピカのシルバーに映り込んだ。


「______ さん、見っけ! フフ。」


「・・・!!」


ほんの僅かの間の出来事に
俺の頭は真っ白になっていた____


消毒液と、
かゆみ止めのレスタミンの匂い・・

そしてこの、カサついた小さな手

目隠しされた俺の唇から

ゆっくり

剥がれる様に煙草が落ちていく・・。


「ダメじゃーん。こんなトコで
先生口説いたり・・してちゃ・・ア・・」


徐々に指の隙間から広がる視界、
落ちていく、細い指を目で追っていた

さっきまで明るかった声も
フッ・・と、息に変わる



咄嗟に力なく外れていく両手首を

ガッ!と掴んだと同時に

やっと・・俺は声を搾り出す。




「___________ 麻美ッッ・・!!」