そう可笑しく思いつつ、
暗がりの僅かの灯りの下、
窓辺に背を向けて立った。

麻美に見られまいとポケットに
畳んでいたメッセージ・カードを
取り出して眺めてる。



『・・いかがお過ごしですか?

私は元気にやっています。 史亜』



アイツらしい可愛い字、言葉だ。

たったこれだけ書くのに・・

ペンを持ったまま机で
考え込んでるお前が目に浮かぶ。

ああ、解ってるよ。

いっぱい・・話したい事があるんだろ?

ノー・ギャラでまた会いに行ってやるから

もうちょっと待ってろ・・。


「ねえ? 」


まだ眠れそうにないのか、
寝返りばかりうっていた
麻美の突然の声。


「ん・・?」

「気になってたんだけど・・
あの彼女は、
どうして絞殺なんて?」

「・・右の頬を打たれたら
左の頬を差し出せと言うだろう?
彼女もアーメンだったのさ。」



"せめて死だけは__

神に許されたものでありたい"



あの時、
俺は彼女の心の声を聞いた。

神と云う存在が出会うまでの
彼女を支えたと云うなら、
俺は感謝しようとさえ思うほど
怖いくらい・・純粋な女で。

つい・・
思い出し笑いを天井に向けた。


「イヴがその昔、齧った林檎には
"男を困らせる遺伝子"でも入って
たんじゃねえかと・・時々考えるよ。」

「なぁにそれ? 私の事?」

「フフ アー、お前もな。
解ってるなら早く寝ろって。」


俺は新約聖書?なんぞに
興味はないから詳しくは知らない。

もしも、そうだったりしたら・・

此処には、
生きるのがイヤになってた女、

そして・・下界に帰る間際
『お別れのアツイ口付け』を
この俺にオネダリした女も・・

きっとその末裔だ。