Under Tamiflu 灰色の天使

「もう・・遅いよ・・。」

生きたい・・そう思った時から
コイツは前進し始めた。
遅くはない、
何度やり直したっていいじゃねえか。

「お前の敵はその"思い込み"さ。
落ち着いたら・・出て来いよ。」


テッシュケースに手を伸ばす
彼女にそれを手渡してやる。

体を離して俺はベッドから降りる
とまた廊下に出て外を眺めた。

中庭に花が赤く咲いた
梅の木があるんだ・・
それを窓辺から観ている。

俺がかつて歌った歌の
歌詞を思い出していた。


"星だって
朽ちること知らない

花だって
散ることを恐れない"と。


( ・・生きてりゃ、また‥
いい春も来るだろう? )

ドアの開く音が背後でした。

急に外へ出た俺に
不安に思ったか、
間もなく麻美は隣に並ぶ。

俺はまだ、風に微かに
揺らぐ梅の花を見たまま。


「・・麻美、俺の本職は
死神じゃねえと云ったよな?」

「あ・・・うん。」


窓辺に背を向け、
彼女に振り返り
カラカラに乾いた頬の表面に
できた涙の筋を親指でなぞった。

ガキっぽい赤鼻に少し笑みを
漏らし、
ツルと人差し指をかすらせる。

解っている、
甘やかすツモリはないんだが。

あまりに熱の篭った瞳で
俺を見上げるから・・。

アイツとつい、
重ねてしまいそうになる。

柔らかな黒髪に手を置いて
俺はその自覚から、
そして視線をも外すのだ。


「お前にヒトツ忠告しておく。
1%でも納得できねえ"死"なら、
絶対に受け入れちゃなンねえ。」

「・・・。」

「俺に言える事はそれだけだ。」


話して解らせるのもいいだろう。

だが・・・。

麻美の視界から
俺の姿がいつまでも
消えない様では困るんだ。