「危ない目に合いかけたのに、どうして庇うんだよ。」

「…だって、大丈夫だったもん。逃げれたもん。」

やっちゃんに怒られることなんて数えるくらいしかなかったから、泣きそうになって俯いてしまう。

「千穂ちゃんもこう言ってることだし、離してくれない?」

「嫌です。」

「じゃ、俺を殴る気?」

先輩のその言葉にやっちゃんの体が少し反応したのに気付いて、私は精一杯の力で、やっちゃんの腕を引っ張った。

「ダメ!暴力はダメ!」

すると、意外にもやっちゃんはすぐ先輩を放した。

「君さ、気に入らないんだよね。」

解放された先輩はやっちゃんに掴まれていた部分にまるでゴミがついているかのように祓った。

でも、やっちゃんは先輩の声など聞こえないかのように、私の手をとって歩き出した。

「君が入学してきてから、俺に言い寄ってくる女が減ったんだよね。」

当たり前よ、やっちゃんと先輩なんて月とスッポンじゃない。

「千穂ちゃん1人に構ってないで、色んな女と遊べばいいのに。」

どんどん遠ざかって行く先輩の声に、なんて憐れな人なんだろうと思った。