六年前。 あたしが高校二年の夏だ。 一度だけ、気丈な母が泣いている姿を見たことがあったのだ。 台所で、声を殺して泣いている母の後姿を。 その時は、何かよっぽど悔しいことでもあったのだろうと、母の性格を思い想像していた。 それが愛する者の死を悼む、悲しみの涙だったとは……