「お前さ、俺との結婚を諦めてもいいとか、思っただろ?」



あれから興奮した母の様態が急変し、二度目の発作が起きかけて、父が呼ばれた。

確かに一瞬、母をここまで追い詰めた自分を呪った。

運命が引き合わせたとは言え、雄一と雄一の家族が母に与えた心理的な影響を思った。

わたしが雄一との関係を絶って、父と母の選んだ跡継ぎとの結婚を受け入れたなら、母の心の平安は保たれるのかな、って。

でも、父にとっては、それは既に織り込み済みの単なる事実であって、二人の関係に意味を与えるものでは無かったらしい。


父は全てを理解していたのだ。


鎮静剤の注射も拒み、暴れて手の付けられなくなった母を、父は身をもって押さえつけた。


「操、わたしの為に生きてくれ!!」


その悲痛な叫びが、母の混乱を沈めた。


「わたしは君に健一くんを忘れてくれと願ったことはなかった。

だが、死してなお、彼が君を傷つけるなら、敢えて言う。


彼を忘れて、わたしの為に生きてくれ!」


昔も、今も関係なく、これから……


母には、やっと父の愛が見えたに違いない。