わたしは、一度だって父との血の繋がりを疑ったことなどなかったのに。



それは疎ましい程に掛けられた期待と愛情とで、がんじがらめの生活だったけれど。

わたしはわたしなりに、父の愛に応えようと、自分を殺して生活してきたのは確かだけれど。


「なんで……」


なんで今更、母はわたしにその真実を告げようと思ったのだろうか?


「お父様はね、本当はとても愛情深い方なの。

ただ少しだけ、その表現が下手なだけ。

あなたと坂本の結婚話が駄目になって、結果的には良かったのかもしれないけれど。

雄一くんが優子さんの義理の息子さんだったなんて、あんまり偶然過ぎて……


なんだか最近、昔の夢をよく見るの。

健一さんとわたしと華と、もし三人が一緒だったら、なんて……


そんな自分が許せなくて、お父様に悪くて……」



「お母様……」



母は目を閉じたまま、涙を流していた。

震える瞼が痛々しくて、その心の痛みが空気を通して伝わってくるようで。

わたしは母の手を強く握り返した。


だけど……

健一さんて、どんな人だったのだろう?


わたしの思いは、今耳にした現実を飛び越えそこに向かっていた。


だって……

彼の姿を想像できないわたしには、母の思いは他人事でしかなかったから。

母の語った真実は、わたしを苦しめるだけのものでしかなかったから。