「帰ろう」 聞こえてきた声と同時に抱き上げられた。 「や、やだ……」 恥ずかしがるわたしを無視して、雄一は何食わぬ顔で歩き出す。 見上げると、甘味屋の二階で坂本が手を振っているのが見えた。 「もう逃がさない」 「逃げないよ」 「わかるもんか」 雄一は真っ直ぐ前を向いて歩き続ける。 どこかで密かに喜ぶわたしがいた。