わたしの表情が変わったのを、坂本は見逃さなかった。



「そろそろ戻りましょうか?

雄一くんが、きっと心配していますよ」


雄一の名が出たことに、わたしは少なからず驚いていた。


「なんでそう思うんですか?」


「彼はいまどき稀に見る一途な男ですから。

店にいる時も、いつも奥のあなたの様子を伺っていますよ。

なにが喧嘩の原因かは分かりませんが、彼はいつも華さん、あなたのことを気にかけています。


喧嘩して、家を飛び出して、こんな時間まで行方知れずとなれば……」


時計を見ると、あれから二時間近くが経過していた。