「信じられないって顔ですね。
でも真実です。
彼の癌は予測どおり、その後いろんなところに転移してね。
結婚して直ぐ前立腺癌になって、彼は男性機能を失いました。
それから、大腸、肺。
その度、大きな手術を乗り越えて、驚くべき生命力で持ちこたえてきた。
だが、今は脳にきてる。
もう限界です」
「もうすぐ死ぬってことですか?」
「遠からぬ未来に、必ず死は訪れます。
彼は、それをもう随分と前から覚悟してます。
そして、彼女の為に、次の人生を遺そうとしてくれているのです。
わたしと会うことを許すことによって、彼女が彼の死を望まないように気遣ってくれているのです。
彼女が希望を失わないように。
わたしは、それが彼の真由美への愛だと思ってる。
彼の愛の深さを、自分のそれと比べられるとは思いません」



