「それが今まで、生きながらえた」
「そう、それが最大の誤算でした。
幸せになことに、彼のお陰で彼女の父親は手厚い治療を受け、普通より少し長く生きながらえることができました。
彼女が彼と結婚したことで、残された家族も路頭に迷うことはなかったのです。
彼にしても、こんなに長く生きながらえたのは、ひとえに彼女の献身的な内助があってこそと感謝している筈です」
「坂本さんは、それで良いんですか?」
わたしの問いかけに彼は少し思いあぐねた後、意を決したように言葉を絞りだした。
「彼は、わたし達二人の仲を見て見ぬ振りをして認めてくれているのですよ」
「えっ?」
「わたしが年に何回か京都を訪れる時、彼はわたしの元に彼女を返してくれるのですよ」
「返す?」
わたしは二人の関係は秘密なのだと思っていた。



