「じゃ、話を続けますね。
やせ衰えてなす術を失った父親と、絶望の淵にいる母親と、加えて真由美にはまだ小さい兄弟が二人もいました。
その時、わたし達は十五。
わたしは卒業後、東京に奉公に出ることが決まっていました。
別れる時、わたしは奉公に精を出し、いつか必ず真由美を迎えに行くと誓いました。
あの時、東京に出ず、真由美の元に留まっていれば、また違った人生が歩めたのかもしれません。
でも……
まだ、ほんの十五で、丁稚見習いの小僧でしかないわたしに、その当時何が出来たでしょう。
わたしとて、生きることに精一杯で、真由美もそれをわかっていました。
毎週欠かさず様子を知らせる手紙が来ましたが、真由美はわたしに金の無心をすることはなかったし、愚痴を書いてよこすこともありませんでした。
只、ある日突然、嫁ぐことになったと……」



