「何処から話せばいいでしょう?」



坂本は、わたしを真正面から見据えると、少し躊躇するように声を落とした。


「何処からって……」


「わたしが二階堂呉服店に奉公に上がったのは、中学を卒業したすぐ後でした。

当時は中卒で働きに出る、なんてこともそう珍しいことではなかったから。

だから華さんに初めて会ったのは、わたしが十五で華さんが三つの時ですね。

勉強は好きだったんです。

だけど、わたしの家は貧しくてね。

奉公に上がってからも、多少諦めきれない気持ちがあって、こっそり勉強してました。

それが旦那様の目に留まったのでしょうね。

ある時呼ばれて、わたしが望むなら、定時制の夜間部に通わせてくれるとおしゃってくださった。

嬉しかったな」