「ごめん、な。」
ずっと黙っていた拓真が、
いきなり喋りだした。
「…何が?」
「許嫁がいたこと、黙ってて。」
「いい、よ。別に。
何か理由があったんでしょ。」
拓真を見上げると、また黙りこんでいた。
「でもね……」
「でも、何?」
口を開いて、止めた。
『何であたしを、好きだと言ったの?』
聞けるわけない。
許嫁がいるからって、
絶対その人を好きになるとは限らない。
でも、それ以前の問題で。
ただ、純粋に、
あの時、拓真が言った言葉が
本心なのか、聞きたかっただけ。
でも、今さらそんなことを
拓真に言ったってしょうがない。
あたしはもう、拓真を好きじゃないし、
これからも戻ることはない。
だったら、別に、
本心だったかどうかなんて、
もうどうだっていい。
そう、思っただけ。
「…………?
なんだよ。」
「やっぱ何でもない!
気にしないで!
早く行かないと遅刻するよ。」
あたしは走り出した。
拓真は不思議そうにしてたけど、
あたしを追って走ってきた。
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