男は再度ヘルメットをかぶり目を閉じた。


椅子に預けていた身体はまるで重力から開放され浮遊しているように感じさせる。


薬効がクライマックスに達しようとしていたその時、まず聴覚に異変が起こった。音が聴こえてきた。


最初は遠くから。


二拍子で弾くエレキベースの重低音にあわせてバスドラムをキックしているような規則的な鼓動が何処からともなく聴こえてきた。


音は次第に強まり男の身体を揺さぶるまでになる。


男は宇宙空間に浮かびただ鼓動に身を任せていた。


心地よかった。安心感に包まれていた。


母親の胎内にいるように……。正にこれはケンイチの胎内記憶だった。