静かにドアが開いて、

律がひとりで部屋に入ってくる。


「…もう痛みは大丈夫か?」


乾いた空気に、律の声が響いた。

まだお腹が重いような感じはある。

でも、そんなことどうでもよかった。

ギシっと音を立てて、律はゆっくりとパイプいすに腰掛けた。


「…あの、さ、柚希…」


もう、わかってた。

病院に来るまでの記憶も、来てからの記憶も、ほとんどない。

でも、気付いた時には、もう何もかも分かってた。


「…ダメだったんでしょ?」

「……」

「赤ちゃん、ダメだったんでしょ?」


自分でそう声に出して、改めて実感した。