懐かしむように父さんが言う。

昔は寂しそうにしてたけど、最近はもっと違う感情なのか、穏やかだ。


「なぁ、オレってなんで“空”なの」

「昔から言ってるだろ?空のように心の広い男になれって」

「ふーん…」

「なんだよ、嫌いか?」

「嫌いじゃないけど」


そりゃあ時々“ソラマメ”だとか“マメ太”だとか言われるけど、嫌いじゃない。


「…あと、母さんが言ってたのは…」


“あの子の名前を呼ぶたびに思い出してね”

“私が死んでも、ちゃんと空から見てるよって”


最後の日に、父さんに言った言葉。

それからしばらくして、眠るように息を引き取った。


「見てんのかな…」

「見てるんじゃないか?悪いことしたら母さんから天罰が下るぞ~」

「悪いこと…してないし!!」

「ほぉ~、研修医の分際でナースに手を出したらしいじゃないか~?」

「本気だし!!」


ってか、なんで知ってんだよ!?


「本気ならいいんだ。女の子を守ってやれる男になりなさい」


父さんの言葉には重みがあった。

でも、わかるよ。

父さんが母さんを愛してること。

そんな父さんと母さんから生まれたオレも、愛されてることも。

それが幸せだってことも。


「…今度、紹介するよ」

「そうか、家族が増えるんだな」


こうして、愛はつながってくんだ。





【end】