「傑作だな~、陣痛に気づかないとか鈍感すぎるだろ!」


殺気立ってる産科スタッフとは対照的に、“一応”心臓外科ドクターの旦那さんは爆笑。


「笑いごとじゃないよ!」

「そうだね、ごめんごめん」


夜中に呼ばれたからか、下は紺色の術衣、上はTシャツのまま。


「緊急カイザーになるかもね…」


ポロッと産科スタッフさんが漏らす。

雰囲気にのまれて不安になってる私は、その言葉を聞き逃さない。


「ねぇ、カイザーって?」


一人落ち着いて座ってる律に聞く。


「帝王切開のこと」

「えぇ!?緊急手術!?」

「赤ちゃんは大丈夫だから、心配しなくていいよ。2000gあれば十分だ」


当直の心臓外科の先生以外に、吉岡先生も来てくれるらしい。


「なぁ柚季、皇帝にカエサルっていたじゃん?」

「はぁ?」


なんで今そんな話?

世界史にそんな人いたよね…

で、カエサルがどうしたって?


「帝王カエサルも“カイザー”で生まれてきたんだよ」

「…だから“帝王”切開?」

「正解!この子も皇帝になるかなぁ」


律のつまらないうんちく話に、なぜか笑ってしまった。

…っていうか、律なりの、私をリラックスさせるための冗談かな?


「もうすぐ会えるから、がんばれ」

「すぐに手術しなきゃだめ?」

「大丈夫、オレもオペ室でスタンバってるから」